お客様インタビュー
人口140万人都市を支える京都市の固定資産税業務の舞台裏
全国で最初に指定された5つの政令指定都市の1つである京都市は、政令指定都市となってから11の区ごとに行政事務を行ってきました。京都市行財政局 税務部 資産税課 効率化担当係長の稲波 浩 氏は、「区単位で行っている行政事務は多くありますが、固定資産税に関わる業務もその1つです」と説明します。
固定資産税業務は、市民生活に直結する重要な仕事です。土地や家屋の評価を行い、課税標準額を算定して税額を計算し納税通知書を発送、3年ごとの評価基準の見直しや制度改正に合わせた変更、地図情報や登記データとの突き合わせなど、高い専門性と熟練性が必要とされる領域です。
市税事務所への集約化前、各行政区に課税部門が存在していた際は、課税事務の細部に至るまで、すべての区で事務を統一できていたわけではなかったため、複数の課題が浮き彫りになっていました。
京都市行財政局
税務部 資産税課
効率化担当係長
稲波 浩 氏
「従来からの慣習や区独自の創意工夫に依存していた部分も多く、データ管理や事務処理方法が統一はできていない部分もありました」と、京都市総合企画局 デジタル化戦略推進室 システム第三係長(システム刷新の検討時に資産税課 効率化担当に在籍)の藤田 陽平 氏は話します。
そこで、京都市では2015年に固定資産税業務を市税事務所へ集約し一元化を図りますが、各区でばらばらだった帳票やデータの調整作業が新たに必要になったため、職員の負担は増えつつありました。
京都市総合企画局
デジタル化戦略推進室
システム第三係長
藤田 陽平 氏
紙台帳の業務フローに沿ったシステム その名残が生んだとっつきにくさ
業務を集約しデータの一元化を進めるなかで、従来のシステムにも課題がありました。職員の異動があると、新たに担当する職員が業務に関わるシステムを習得するためには、多大な時間を要することとなりました。
京都市行財政局 税務部 資産税課の山田 月暉 氏は、「紙台帳を中心に管理していた頃の業務フローをベースにしてシステムが構築されていたため、当時の業務フローを知らない職員には使いにくいという声がありました。『各項目を入力すべき箇所が感覚的にわからない』『関連する情報が別のシステムを開かないと見ることができない』といった点がその典型ですが、新たに配属された職員がシステムを使うためには、システム操作研修の受講とは別に、熟練の職員にある程度教えてもらうことが事実上必要でした」と説明します。
京都市行財政局
税務部 資産税課
山田 月暉 氏
利便性を高めるために増えたツール ノウハウの属人化と運用コストの限界
そこで京都市は、独自で補助ツールを作成し改善を目指します。しかし、職員の異動や退職に伴って、メンテナンスや利用方法の引き継ぎが煩雑化していました。藤田氏は、「業務の効率化を目的とした補助ツールが、システム運用の安定性、継続性という点で重荷になってきていました」と話します。
さらなる悩みがシステムの運用コストです。当時、課税業務に必要な地図情報と課税台帳について、それぞれ別のベンダーのシステムで管理されていました。課税業務上、システムの情報をお互いに利用するためのデータ連携そのものにコストが発生し、加えて税制改正や評価替えのたびに両システムの改修費用が必要となることも負担と
なっていました。
「従来のシステムは、ベンダーが管理するシステムに加えて独自で作ったシステムや補助ツールもあり、保守が極めて煩雑になっていました」(藤田氏) こうしたなか、京都市では課税業務に関わるシステムの入れ替えに踏み切ります。
「当時、これ以上メンテナンスを重ねて使い続けることは困難でした。サーバを含めて機器の更新時期もあり、コストを抑えつつ使いやすいものを導入する必要がありました」と、京都市行財政局 市税事務所 固定資産税室 固定資産税第一担当 土地第一係長の 中下 康弘 氏(システム刷新の検討時の資産税課 効率化担当係長)は振り返ります。
京都市行財政局
市税事務所 固定資産税室
固定資産税第一担当 土地第一係長
中下 康弘 氏
地図と課税台帳を統合的に扱える新たなシステムの検討へ
システム刷新にあたり、京都市では、当時すでに他局で導入していたGIS(地理情報システム)をシステムの中核にする方向性で検討を始めました。しかし、検討を進めるうちに、固定資産税業務の効率性を追求するためには、システム上、地図情報だけではなく、課税台帳についても地図情報と組み合わせて扱えることが絶対的に重要であるこ
とが、浮き彫りになってきました。また、業務効率を上げ、長く利用できるシステムにするには、GISや評価額、課税標準額の算定に至るまでのプロセスを、一元的に処理できる仕組みも必要と考えました。
このように、GISを出発点に検討が始まった新システムは、固定資産税業務の効率性をいかにして上げることができるのかという方向へ議論が変化していきました。こうしたなかで京都市が注目したのが、両備システムズの「マルコポーロ for Web」(以下、「マルコポーロ」という)でした。
藤田氏は、「評価や課税標準額の計算に必要な情報を管理する機能が、パッケージ製品として既にほとんど揃っていたのに加えて、両備システムズには、地図と課税台帳の連携ノウハウだけでなく、土地評価事務に係る業務知見もありました。さらには他の自治体への豊富な導入実績がパッケージ製品なので、これなら限られた期間でも安心して
移行できるだろうと大きな安心材料と考えました」と話します。
システム導入の成功への道標となった「課税支援システム再開発方針」
システム開発にあたり、京都市はシステム開発方針を明確にしたうえで進めるようにしました。
「このプロジェクトは携わる職員も多く、それぞれの立場で多種多様な意見が飛び交うことは明らかでした。そのため、何を軸として考え、何を優先するのか、その判断のベースを決めて共通の認識を持つことが不可欠でした。これは、過去のシステム開発や運用の反省から来ています。現場の要望やニーズに合わせて、できる限り拡張や機能追加を行って改善を図るのですが、なかには、その時は何かしらの目的が達成できても、制度改正や人事異動を重ねた数年後には『なぜこんな仕組みにしたのだろう』と反省することが少なからずありました。こうした経験を踏まえ、シンプルで、過去の紙台帳の運用を知らない職員が使っても操作に迷わないシステムにすることを柱にしました」と藤田氏は語ります。
この「シンプル」「初心者でも使える」「長期継続」をもとに策定されたのが、「課税支援システム再開発方針」です。この方針は6つの指針としてまとめられ、資産税課内に掲示されました。全員の目に触れる場所に掲げることで、単なるスローガンではなく会議の場でさまざまな意見が飛び交ったときも、最終的に立ち返るべき姿とな
りました。
「方針の明確化によって、京都市様のために本当にやるべきこと、逆にやらないほうがいいことを、はっきりお伝えできる環境を作っていただいたと感じています。要望について、それが技術的には可能でも限られた期間でやるべきか、同じ目線で判断できたのは大きかったです」と両備システムズの担当者は話します。
この指針は、プロジェクトで中心メンバーだった中下氏と藤田氏がともに異動となった際も、後任の職員を支えることになりました。
京都市行財政局 税務部 資産税課 資産税係長 川島 広之 氏は、「プロジェクトを引っ張ってきた二人が同時にいなくなり、プロジェクトに途中から参画した私だけが残された状態だったので、どう進めればいいのか当初は頭を抱えました。しかし、この『課税支援システム再開発方針』の考え方があったので、開発を進めるにあたり、さまざまな課題に直面し迷いが生じたときもこの方針に立ち返ることで、ぶれることなく最後まで遂行することができました」と語ります。
両備システムズも、「開発体制の変更という事態に、当社もこの方針のおかげで揺らぐことなく対応できました。システムの導入側と提供側は本来立場が異なりますが、共通の目線を持てたことが、プロジェクト成功の大きな要因だったと思います」と付け加えます。
システム開発において京都市が定めた「課税支援システム開発方針」
京都市行財政局
税務部 資産税課
資産税係長
川島 広之 氏
総勢140人規模の大研修会を実施
受講者の反応に大きな手応え
導入には、現場の職員が新しいシステムにスムーズに移行し活用できる点も重視しました。本稼働前には、両備システムズのサポートで、市税事務所の職員を集めて研修会も開催しています。川島氏は、「補職者に対しては、新システムに変わることを説明し、開発中のシステムを用いてデモンストレーションを行いましたが、実際に日々の業務を担う係員の皆さんにどう受け止められるかは未知数でした。そこで、両備システムズの協力で、市税事務所の全職員を対象とした大規模研修会を開催することにしました」と経緯を話します。
「画面がスムーズに展開されることに対して、受講者から驚きの声が上がり、手応えを感じました。参加した職員からは、『地図の表示が速かった』『ストレスなく使えた』との感想が多く寄せられました」(川島氏)
研修会では、実際の課税業務を想定した演習を実施しました。初めてマルコポーロに触れる職員が、問題なくシステムを操作する姿を目の当たりにして、新任職員でも短期間で習熟できることを確認でき、これならマルコポーロが受け入れられると確信を得ました。5日間にわたり総勢約140名が参加した大規模研修会の実施に際し、両備システムズは「同時接続数が多いなかでも快適に動作するよう細かい調整を重ねました。動作が速くスムーズであると感じてもらえたことが、職員の皆様に安心していただけた要因だと思います」と振り返ります。
前列は京都市の皆様、後列は両備システムズ関係者
地図と課税台帳をスムーズに行き来
直感的な操作で誰もが使えるシステムに
京都市では、2020年3月にマルコポーロの稼働が開始。運用開始から5年が経った現在、大きなトラブルもなく、3年に一度の評価替えにも安定稼働を続けています。
固定資産税業務のシステム面は大幅に改善され、現場と統括部門双方の職員の業務負担が軽減されました。直感的な操作で、異動したばかりの職員であってもすぐにシステムに慣れることができ、その結果、新任職員に対する研修コストも大きく削減されています。
「マウス操作だけで直感的に使えるのは旧システムとの大きな違いでした。インターネットで対象を探すような感覚で地図や航空写真を見ることができ、物件情報にアクセスできます。台帳はもちろんのこと、登記情報も閲覧できます。地図と課税台帳をスムーズに行き来ができています」と山田氏は評価します。
また、従来のシステムに対し、マルコポーロでは課税標準額まで算定できるようになりました。
「市民からの問い合わせに、従来のシステムでは評価額はお答えできても、課税標準額をすぐに回答できませんでした。市民のなかには『結局、いくら納税する必要があるのか』を知りたい方もいます。課税標準額を数分で回答できるのは、市民サービスの向上につながっています」(中下氏)
クラウド環境で稼働するマルコポーロ
遠隔保守の大幅な効率化に貢献
マルコポーロはクラウド環境で稼働しています。当時は、基幹業務のクラウド化への懸念もありましたが、その後のコロナ禍において、図らずもその真価が発揮され、価値が証明されることになりました。
「他の基幹系システムは市でサーバを保有しているため、エンジニアが常駐するか、サーバの設置場所までお越しいただかなければ保守作業ができません。しかし、マルコポーロではクラウド上で管理されているので、エンジニアの移動を必要とせず、電話やメールの連絡で対応していただくことが可能です。特に、密を避けなければならなかっ
たコロナ禍においては、クラウドで運用できるということは大きなメリットだったのではないでしょうか」(稲波氏)
また、全国的に自治体システムの標準化が進むなかでも、京都市はマルコポーロを高く評価しています。
「地図と課税台帳、資産評価を統合的に扱えるシステムは、標準化の流れのなかでも価値を発揮できると考えています。また、クラウドでの運用についても、今後の標準化への取り組みにつながるモデルケースになり得ると期待しています」と稲波氏は話します。